鬼滅の名言を英語で! 『鬼滅の刃』研究・考察

「伊黒さん嫌だ、死なないで!!」の英訳が「Don't die!」じゃない理由に愛を感じた件

伊黒さん嫌だ死なないで

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今日は、

6/1に発売された、『鬼滅の刃』英語版22巻のワンシーンから、

「おっ!?これは愛じゃないか?」と思った英訳をピックアップしてご紹介します。

 

(ネタバレありますので、アニメ派の人は注意です!)

 

本日の気になった英訳シーン

上弦の鬼をすべて倒し、鬼舞辻無惨を追いつめたかに見えた鬼殺隊。

 

しかし、

無惨の強さは想像をはるかに超えていて、鬼殺隊最強の柱が数人がかりでかかっても、苦しめることさえ出来ない。

 

「鬼」の弱点である、「頸を日輪刀で切り落とす」ことさえ通じない無惨。

残された手段は、「日の光」を浴びさせること。

 

しかし、夜明けまでまだ1時間以上もあり、文字通り命を削りながら、

鬼殺隊の柱の筆頭である岩柱・悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)をはじめ、柱5人がかりでかかるなか、柱になってまだ日の浅い甘露寺蜜璃(以下、甘露寺さん)は、無惨の攻撃を追うことも出来ず、「勘で運良く避けれてるだけ」で、自身は何も戦果を上げてないとして、捨て身で突っ込もうとするが、無惨の新たな能力「吸息(きゅうそく)」によって左側頭部から肩をえぐりとられてしまう。

 

すぐさま助けに入る蛇柱・伊黒小芭内(いぐろおばない)。

それを阻止しようとする鬼舞辻無惨の攻撃を、なんとか防ぐ柱たち。

 

無惨の攻撃圏外に避難し、甘露寺さんを他の隊士に頼むと言い残す伊黒さん。

甘露寺さんは、自身が「守られている」ことに負い目を感じます。

待って私まだ戦える

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第22巻(集英社)

 

自分は経験が浅いけれど、鬼殺隊を支える「柱」の一人。

同性で仲の良い胡蝶しのぶも、文字通り自分の命と引き換えに上弦の弐・童磨を倒したし、自分の師である、炎柱・煉獄杏寿郎も、上弦の参・猗窩座(あかざ)と対峙し、命をかけて他の人々を守った。

だから私も、こんなところで休んでる場合じゃない。戦わなきゃ。

そんなことを感じさせるセリフと表情です。

 

なお、このシーンの英訳は、

待って私まだ戦える

Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.22

甘露寺蜜璃

Wai.
待って

I... I can still fight.
私まだ 戦える

I won't hold you back!
今度は足を引っ張らないようにするから

「I won't hold you back」の、

 

「won't」は、意思を表す助動詞「will」の否定形ですから、

甘露寺さんの「そうしたくないんだ(won't)」という強い意志が表されています。

 

その後は、

英熟語

hold A back
=Aを食い止める、妨げる

という熟語表現で、

直訳すると「私はあなた(たち)の妨げになりたくない、引き留めたくない」という意味です。

 

それに対しての伊黒さんのセリフが、

「もういい、十分やった」

もういい十分やった

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第22巻(集英社)

それに対しての甘露寺さんのセリフが、

「ダメよ、全然役に立ってない このままじゃ死ねない」

 

みんなが命をかけて戦っているんだから、これしきの傷で戦線離脱するわけにはいかない。

甘露寺さんは、

「死んでもいいから戦わないと!」という気持ちでいるわけですね。

 

しかし伊黒さんは、甘露寺のことを隊士に頼み、自分は戦線に戻ります。

 

「待って!! 私もいく!! 伊黒さん」

呼び止める甘露寺さん。

 

しかし伊黒さんが立ち止まることはありません。

 

その背中に向けて甘露寺さんが叫んだ言葉が、

伊黒さん嫌だ死なないで

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第22巻(集英社)

「伊黒さん 嫌だ 死なないで!!」

 

鬼殺隊に入ることは、「死」を覚悟すること。

 

そして、今日ほど「死」を覚悟した時はなかった。

それほどまでに強大な無惨の力。

 

だから、「死なないで」という言葉が出てきたわけです。

文字通り誰かが犠牲になりながらでしか、鬼舞辻無惨を倒せない

 

甘露寺さんは、手負いの自分が死んでもその役に立てばと思っていたわけですが、

伊黒さんは

「もういい、十分やった」

とやさしい目で語るのです。

 

それはつまり、

自分がいなくなった分、伊黒さんが命をかける、という意味も含んでいるわけです。

 

だからこそ、

「伊黒さん、嫌だ 死なないで!!

になるんですね。

 

「伊黒さん、嫌だ 死なないで!!」の英訳は?

さて、いよいよそこで本題。

 

この甘露寺さんのセリフ、

「伊黒さん、嫌だ 死なないで!!」

を英語版でどう訳されているか、見てみたんです。

 

普通にそのまま訳したら、

「No, Iguro*! Don't die!」

かな~と思ったんですよ。
(*英語では通常呼びの「さん」に敬称をつけないのでIguroのまま)

 

動詞「die(死ぬ)」の否定命令文ですね。

 

でも、英語版22巻を見てみたら、違ったんです。

伊黒さん嫌だ死なないで

Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.22

甘露寺蜜璃

No, Iguro...
伊黒さん 嫌だ

Don't get yourself killed!!
死なないで!!

 

「Don't」から始まる否定命令文なのは同じでしたが、

「die」じゃなくて、「get yourself killed」?

なんじゃこれと。

 

「自分で死ぬな?」

不思議に思って高性能と評判の翻訳機にかけたところ、

「自殺しないでね!」

・・・自殺はしてないだろ!? 謎が深まりました。

 

しかしこの件についてよくよく調べてみると、

これはとても英語っぽい表現で、

なおかつ、

伊黒さんの愛を感じ取った甘露寺さんの感情が込められている表現だということがわかるのです。

 

「死なないで=Don't die」じゃない?

通常、「死なないで」の英訳は、

Don't die!

になります。

 

先ほども言ったように、

「die」は「死ぬ」という動詞で、その否定形なので、否定命令文ですね。

 

通常ならば、それでもいいんです。

 

実際、鬼滅英語版でも、

「Don't die.(死ぬなよ)」

として使われているシーンがありました。

Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.1

Nezuko... don't die. Don't die.
禰豆子…死ぬなよ 死ぬな

 

禰豆子が大量に血を流しているわけですから、

死ぬ(die)のはダメだ(Don't)というのがわかりやすい英訳です。

 

しかし、

今回はそうじゃなかったですね。

死んでほしくないのに、

「Don't die」ではありませんでした

 

「Don't get yourself killed」とは?

代わりに使われていた表現が、

「Don't get yourself killed」

で、「Don't die」と同じく「Don't」から始まるわけですが、

その後が大きく違う。

 

一般動詞「get」「kill(死ぬ)」の過去分詞「killed」が使われていますが、

これ、

「get+目的語(O)+過去分詞」

という文法表現、

もっといえば

「主語(S)+get(V)+目的語(O)+補語(C)」

という、「第5文型(英語の呼吸・伍ノ型)」です。

(英語の呼吸は肆ノ型で止まってます、頑張ります…)

 

なので、

「O=Cになる」

で、今回は、命令文なので主語(S)Youが省略されていますが、

(you=あなた)
don't=~しないで
get=~になる
yourself=あなた自身(目的語)
killed=殺される(補語)

で、

yourself(あなた自身で)=killed(殺される)はDon't get(ならないで)

という意味になりますね。

 

「get」は伊黒さんの「選択」を表す

「get」は「手に入れる」という意味の他に、

get=(そういう状態に)なる

という意味も持ちますので、受動態(受け身)のbe動詞の代わりとしても使われます(get受動態)。

 

このシチュエーション。

伊黒さんは、どう考えても「殺される(killed)」戦場に戻るわけです。

自分自身(yourself)の判断で。

その状態になる(get)だから、

get yourself killed

ということになるわけです。

 

「自殺」とはちょっと違いますが、

自ら(yourself)殺される(killed)状態に置かれに行く(get)ですから、

「自殺行為」というのに近いかもしれません。

 

愛を感じるからこその、Don't get yourself killed!!

そもそも「killed=殺される」というワードを使っていますが、

甘露寺さんが原作で言った言葉は「死なないで」でしたね。

 

別に、「殺されないで」とは言ってないわけです。

 

でもどうでしょう??

 

柱としての甘露寺さんの立場になって考えてみると

柱5人に対しても、圧倒的な強さを誇る鬼舞辻無惨の元に、

重要な戦力の一人である自分を置いていく伊黒さんの姿って、どう感じますか?

 

それは一種の「愛情」「優しさ」を感じると同時に、

甘露寺さんの代わりに、

伊黒さんが「命をかける」ということを意味しますよね

伊黒さんの判断で、甘露寺さんを戦線離脱させるわけですから。

 

伊黒さんはどうしても甘露寺さんを守りたかったわけですね。

 

だからこその、「もういい 十分やった」なわけです。

これまで見た中で一番、やさしい目をしていますね。

 

甘露寺さんは「まだやれる」と強がりますが、伊黒さんは甘露寺さんを置いて戦場に戻ります。

それこそ、自分の命を捨てる覚悟で。

 

実際、その後のシーンは、確実に死亡フラグでしょ、というくらいな展開でしたが(実際はそうではなかったのですが)、甘露寺さんの視点から見たら、

この後のセリフにあるように、

もう誰にも死んでほしくないよォ

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第22巻(集英社)

「もう誰にも死んでほしくないよォ!!」

 

そう、

伊黒さんの背中に「死」を感じたワケですね。

 

だから、「死なないで」を、

ただただ「死ぬ」を否定した「死なないで=Don't die」ではなく、

もう誰にも死んでほしくないのに、自分を置いて、死地におもむく伊黒さんの背中に対して、

「死なないで=Don't get yourself killed!!」

と、「どうか殺されないで」という意味で使ったんですよね。

 

そこには伊黒さんの、甘露寺さんへの想いがあって、

そして甘露寺さんの、伊黒さんへの想いもあった。

 

戦いの中で、

ほのぼのと愛を語ることはできない彼らの中にあって、

文字通り命がけの行動の中に愛情を感じたからこその、

直訳しなかった翻訳だった、と言えるのかもしれませんね。

 

 

今日のまとめ

今回取り上げた「死なないで」は、言葉の「ニュアンス」の違いです。

どんな状況なのかによって、「死なないで」の意味が変わるように、英語の訳も、その状況に合わせて変化するものですが、今回のはネイティブっぽい「get」を使った表現で、なかなか日本人が使いこなすのは難しいかもしれません。

 

まぁ、鬼滅のセリフで、現実で使えないセリフが多いからその点はいいのかもしれませんが・・・ただ、「難しい文法」がわかれば、その時のキャラクターの気持ちが、正確に読み取れるようになる、ということがわかっていただけたら幸いです。

 

今日の言葉

No, Iguro...
伊黒さん 嫌だ

Don't get yourself killed!!
死なないで!!

※発音は合成です。参考程度にお願いします

 

今日のテキスト

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