おはようございます!
久々の更新になってしまいましたが、
忘れていませんでしたよ!
ちょっと他の記事に時間がかかりすぎて・・・
なんてこといったら無惨様に殺されそうですが。
さて、今日はそんな無惨様の強烈さを象徴した、
「パワハラ会議」
のシーンからピックアップ!
(Gackt&鬼龍院翔のYouTubeも話題でしたね)
ちなみにこの「パワハラ会議」は、
「柱合会議」と比較して、
良い上司と悪い上司すなわち、良い組織と悪い組織の組織論の対比になっていますので、
その辺も意識してくり返して読んでみると面白いですよ!
そこで本日はまず最初に言ったこのセリフから。
この、「頭(こうべ)を垂れて蹲(つくば)え 平伏せよ」を
『鬼滅の刃』英語翻訳版のネイティブ英語でどう訳された?という問題です。
問題
頭を垂れて蹲え 平伏せよ
※lower=低くする
選択肢
①down
②bow
③drop
④dogeza
答え
正解
頭を垂れて蹲え 平伏せよ
②の「bow」が正解でした!
dogeza(土下座)じゃないですよ!!
解説
そもそもの意味は?
「頭(こうべ)を垂れて蹲(つくば)え 平伏せよ」
は、いずれも現代でも使える言葉ですが、
平時でこの言葉を使うシーンはあまりないでしょう。
特に会話で使う事はまずありません。
頭を垂れる
「頭」とかいて「こうべ」と読む言い方は、
「上部(かみへ)」もしくは「髪部(かみへ)」から転じたという、語源がハッキリしないくらい古い言い方です。
「垂れる」というのは、
「垂直」の「垂」で、鼻水が「垂(た)れる」、枝垂(しだ)れ桜などに使い、下に下がる事を言います。
「頭」を「こうべ」と読み「垂れる」という表現は、
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」
ということわざが有名ですね。
広辞苑 第七版
実るほど頭(あたま)の下がる稲穂(いなほ)かな
学識や徳行が深まると、その人柄や態度が謙虚になることにたとえる。実るほど頭(こうべ)を垂(た)るる稲穂かな。
実は「垂れる」じゃなくて「垂るる」だったり、
5・7・5の俳句調ですが、読み人知らずでことわざ化したもののようですが、
若い頃は垂直に伸びていた稲も、稲の先(稲穂)にたくさん実がつけばつくほど、稲穂が重力で垂れ曲がることから、
成長すればするほど腰が低くなって偉そうにしなくなる、
という人間の「あり方」にたとえたことわざです。
このことわざは「人のあり方」としてポジティブな意味で使っていますが、
無惨様の「頭を垂れて」は頭が高いからとっとと下げろ、
という意味しかありません。
なお、一般では、
落ち込むときの表現として「頭を垂れている」などもありますが、
文学の中でくらいしか使わないでしょうね。
蹲(つくば)う
「蹲う」だけで使う事はあまりありませんが、
「這い蹲う(はいつくばう)」
という言い方なら聞いたことがある方も多いでしょう。
大体の意味はイメージ通りで、
広辞苑 第七版
①うずくまる。しゃがむ。
②あやまる。平身低頭する。
「平身低頭」という意味があるように、
下々(しもじも)はとにかく頭を下げていろという感じが出ますね。
平伏せよ
いずれも、
文学作品など文字で書かれるような「ぎょうぎょうしい」言葉で、
「平伏」もなかなか日常では使わない言葉ですね。
広辞苑 第七版
へい‐ふく 【平伏】
①両手をつき、頭を地につけて礼拝すること。ひれふすこと。
②座礼の一つ。神または高貴の人に対して行う作法。神前では正笏(しょうしゃく)して背を平らにしてうつむくもの。
「蹲う」と似たような意味ですが、
こちらは高位の存在に対して、下位の存在が取るべき「態度」ですね。
鬼舞辻無惨は、鬼の中の「神」なわけですから、
とっとと下々の態度を示せ、ということですね。
Lower your heads...and bow!
頭を垂れて蹲え 平伏せよ
このように、
トリプルコンボで「とにかく頭を下げろ」と言いたかったこのセリフですが、
英語ではトリプルコンボとは行かなかったようです。
まずは単語を見ていきましょう。
英単語
[形容詞]低い方の、下部の、下級の、下位の
[動詞]下ろす、位置を低くする、下げる、落とす
「低い」を意味する形容詞「low」の比較級だったものが、
一つの形容詞と化した「lower」となり、
さらに動詞化したものです。
なのでこの文は、
動詞の原形から始まる命令文ということです。
次の「your heads」が「head」じゃなく「heads」になっているのは、
下弦の鬼が複数(5人)いるからですね。
つまり「your」は「お前たちの」という意味の二人称複数です。
次の「bow」は、
「クロスボウ(crossbow)」等にも使われる「弓(bow、ボウ)」と同じスペルですが、発音が違い「バウ」と読みます。
英単語
[動詞]おじぎをする、頭を下げる、頭を垂れる、かがみ込む、屈する、従う、くじける
[名詞]おじぎ、会釈
これも動詞の原形で、
「and」で繋いで「lower」と二回目の命令文になっているわけですね。
「bow=おじぎ」じゃない!?
このように、
日本語は「頭を下げろ」的な意味をトリプルコンボで表現しましたが、
英語では「lower」と「bow」のダブルコンボでしかないような感じがします。
ただ、「bow」は
一般的に(というか教科書英語としては)「お辞儀をする」としておぼえる単語ですが、
「頭を垂れる」から「屈する」「従う」などの意味もあり、
「bow=お辞儀をする」というイメージとちょっと違う単語で、
語源である「bow=弓」から、
弓のように(本来真っ直ぐだった物をムリヤリ)曲げるというニュアンスがあるわけですね。
そもそも、
英語圏には日本やアジアのように「おじぎ」の文化がありません。
頭を下げる行為は基本的に「謝罪」を意味することの方が多く、挨拶は「握手」です。
日本人は簡単におじぎ(会釈*)して、
なんなら記者会見で土下座までしちゃいますが、
英語圏の感覚では「おじぎ」自体を基本しないわけです。
*ちなみに会釈は英語で「slight bow」「nod」と言います
もちろんこれだけグローバル化が進んでいますので
「おじぎ」という文化も理解はされて、
アジア人との挨拶ではあわせてくれるようですが、
根本の「おじぎ」の考え方違うので
日本人の感覚で「おじぎ=bow」と理解しない事が大事、
というわけですね。
ですから、
頭を下げる行為=謝罪の意味である英語圏では、
「bow(頭を下げろ)」と命令文で言われる時点で、
相当えらいこっちゃなワケです。
日本の「ブラック企業体質」はここから!?
しかもこのシーンの次のコマ、
下弦の鬼たちがそろって礼をするのですが、
この時のオノマトペ(効果音)にも注目。
日本のマンガでは「土下座の効果音=バッ」が定番ですが、
なんと英語版では「bow」という動詞を使っています。
英語圏はオノマトペが少なく、
英語マンガでは往々にしてこのような表記がありますが、
行為をそのまま音にしてその雰囲気を出す、
というのも英語圏ならではの「平伏してる感」を表す表現と言えるかもしれませんね。
とはいえ、これらの訳が
無惨様のとことん“上から”の雰囲気を残した、普段使わない仰々しい表現か?
と言われると、
日本人である我々は、ちょっと物足りない気もしますね。
でも、
実は我々のこの感覚の方がちょっと「異常」なんです。
そもそも、
無惨様がこれだけ「言っちゃえる」ぐらい、
人を下に見ることができる表現がある=そういう文化があるとも言えますし、
上下関係の厳しさもそうですが、「頭を下げる」事に対して
こんなパターン(さらに土下座まである)を考え出す我々日本人と、
軍隊や身分以外では上下関係があまりないフラットな欧米人とでは、
「頭を下げる」という表現の文化の深みがぜんぜん違う、
ということでしょうね。
・・・まぁ、誇れることではない気もしますが(汗)
そういう意味では、
こんなところにも、
日本の組織に無惨様がいて「ブラック化」しやすい根源があるような気がするし、
英語圏の表現ではこのブラック感を再現できないのも、
しょうがないのかなという気もします。
今日のまとめ
シンプルな訳を深掘りするといういつもの悪いクセで、
日英文化比較まで行ってしまいましたが、
やはり「雰囲気」を出すのは難しい、ということでしょうかね。
文法的には、
「命令文は命令文じゃない」という意見もありますが、
このシーンは誰がどう見ても、見本通りの命令文でした!と言うシーンでした。
今日の言葉
Lower your heads...and bow!
頭を垂れて蹲え 平伏せよ