今回は、まったく教科書に載せられないような非人道的な言動が目立つ、『鬼滅の刃』のラスボス・鬼舞辻無惨の、まさに「鬼」だったシーンの一コマから。
「なんでこんなに下弦の鬼は弱いんだ」と詰問され、下弦の陸が「そんなこと言われても」と心の中で思ったことを、鬼舞辻に反復されてしまった後のゾッとするシーンですね。
鬼舞辻無惨(♀)
何がまずい? 言ってみろ
すべての鬼は鬼舞辻無惨から作られており、自分の作った鬼の位置や思考、言動までも把握しているというとんでもない無惨様のスキルの紹介と、無慈悲な性格を表した悪夢の惨劇の序章となるシーンです。
いやぁ、この鬼(下弦の陸)の立場からしたらもう、地獄ですね。
今回はこの無惨様のガチギレな時のセリフを、『鬼滅の刃』英語版でどう訳されているのか?という問題です。
問題
何がまずい? 言ってみろ
ヒント:①Say ②Tell ③Speak ④Talk
答え
正解
何がまずい? 言ってみろ
正解は②の「Tell」でした!
解説
問題となった文のパートは、動詞の原形が先頭に来るので、これは「命令文」でした。
ただ、その動詞選びには単語の「訳」ではなく「意味」を理解しておく必要があるよ、という例です。
「What has you so worried?」部
前半は、「whatで始まる疑問文」+「現在完了形」の文です。
詳しい解説はまた現在完了形の文を使った例の時にご紹介しますが、「What」の後に来るのは(名詞が続かなければ)「can」や「do」「will」などの助動詞ですから、この「has」は「助動詞」になって、後ろの「worried」は動詞「worry(心配する、気に病む)」の過去分詞になる、現在完了形の文ということがわかります。
「so」は、「そんなに」という意味の副詞ですから、直訳すると、
メモ
you=お前は
What=何を
so=そんなに
has worried=気をもんでいるんだ
・・・という意味になるんですね。
原作で無惨様が言った、「何がまずい?」という言葉をそのまま英語に訳すと「What's wrong?(どうした?/何か問題でも?)」という定型表現になります。
ただ、このシチュエーションでは、下弦の陸が無惨様の言い分に(心の中で)文句を言った行動そのものから、「言っちゃった、ヤベぇ!」という事に気をもんでいる行動を取っているわけですから、「worry」という動詞を使ったわけです。
英単語
〔動詞〕心配する、気をもむ、悩む
「Tell me.」部
先ほども言ったように、これは、動詞の原形を文の最初に持ってきた「命令文」です。
「Tell me.」となっていますが、主語「You」が隠れているので、
本来は「You(お前)tell(言う)me(俺に)」という文を省略したものです。
ここで問題が、「言う」という言葉をなぜ「tell」にしたのか?
ということでしたね。
これは、動詞の「訳」ではなく「意味」の違いを明らかにするとそれがハッキリします。
ポイント
②tell:言う、教える、伝える、知らせる➡内容を伝える時に使う
③speak:言う、話す、述べる➡「話す」行為そのものを表現する時に使う
④talk:言う、話す、話をする➡「会話」を表現する時に使う
①と②がいわゆる日本語でよく使われる「言う」に相当し、③と④は場合によっては「言う」とすることもあるけど、基本的には「話す」になるものです。
ちなみに④は「相手と話す」という意味で、③は話す行為そのものなので、一人でも「He speaks alone.(彼は一人で喋っている)」という使い方ができます。
が、③も④もこの問題にはふさわしくないから×です。
では、残りの①と②の違いですが、①の「say」の例文を見るとわかると思います。
例文
Mr. Kawamura says, "I'm twenty-year-old".
(川村先生が「俺はハタチだ」と言っている)
※主語が三単現なのでsays
明らかに30代以上なのに、こう言う先生たまにいますよね。
これは、この文の話者が「川村先生がハタチ」と言っているわけではなく、あくまでも川村先生自身が「私ハタチ」とイタいことを言っているというすなわち「伝聞」ですよね。
これが「say」の本質です。
(ちなみに「川村先生」は実在の人物ではありません)
この無惨様のシーンは、「伝聞」がほしいわけじゃなく、
「お前はどういうつもりでそう思っているのか言ってみろ!!」
という意味で「言ってみろ」と言ったわけですね。
実際は聞かなくてもわかり、聞く意味もないから、怒った時に思わず出てきたセリフ、とも言えます。
このように、「伝聞」ではなく、考えとか詳しい内容とかを伝える場合は「tell」を使う、というわけですね。
例文
Tell me your answer.(お前の答えを教えろよ)
I didn't tell you about that.(あのことをお前に言ってなかったな)
Can you tell me the way to the station?(駅までの道を教えて頂けますか?)
だから、この場合は「Tell me.」が正解、というわけです。
教科書に載らない「Tell me.」
そもそも学校では友だち同士の会話を前提として英語を習い、そこで「Tell me.=教えて」と習います。
ですから、無惨様が「教えて」じゃおかしいから「Tell」じゃない、と思った方もおられるかもしれませんね。
学校で習う「命令文」と言いつつ、教科書に出てくるような例文は、
参考
Tell me.(教えて)
Show me.(見せて)
Use this pen.(このペンを使って)
など、どちらかというと「依頼文」と言った方がいいケースが多々あり「命令文」というネーミングがおかしいと思った人もたくさんいると思います。
「Show me, please.」というようなお願い感たっぷりの表現もありますからね。
が、この、無惨様の言った「Tell me.(言ってみろ)」は、文字通りの「命令文」です。
「Tell me.」も学校では「教えて」と習いますが、鬼滅英語版では「言え」として使われているんですね。
「命令文」の注意事項
なんでこんなことが起こるかというと、そもそも「命令文」とは、主語の「You」を省略してでも「動詞」を言いたいという文なんです。
つまり、気持ち的に、例えば「Tell」とか「Go」とか、それを優先したいから言っているわけです。
だから元々、ちょっと強制的、高圧的なニュアンスがある文なんですね。
だから、英語圏で初対面の人に「教えて」と言いたくて「Tell me.」「Teache me.」なんて言ったら、ちょっと失礼になります。
そこで「please」を前なり後ろなりにつける、ということをしても、若干薄まる程度で、根本的にはやはり命令文です。
なので、たとえば「言ってみろ」ではなく「言ってちょうだいな」という雰囲気を出したいのなら、
「You tell me.」
と「You」を入れることもできるし、
「教えてもらえる?」というような雰囲気を出したいのなら、
「Could you tell me?」「Would you tell me?」
のように、助動詞を追加するなど、より動詞を遠ざけることで、その高圧感を減らすことができます。
日本語でも「言え」と「言ってくれるか?」「教えてくれるか?」ではやっぱり違いますもんね。
今回のシチュエーションでは、幹部の上弦の参ですらクソミソにする無惨様が、自分が作った配下の鬼たちに気をつかう必要はまったくないため、真っ先に動詞を持ってきて単刀直入に「Tell me.」となっているわけです。
上下関係があるからこそ、「命令文」が文字通り命令になるんですね。
教科書や英会話で普通につかわれるのは、タメ口と同じ感覚、なのでOKなんですね。
タメ口なんで「言ってみろ」ではなく、「言ってみて」「教えてよ」みたいな訳になって、それが「Tell me.=教えて」となっているんですね。
今日のまとめ
今日の言葉
何がまずい? 言ってみろ
What has you so worried? Tell me.