前回に引き続き、炭治郎に活を入れた伊之助のセリフの続きです。
(ネタバレ含みます!)
目次
問題!
この、大粒の涙を流す炭治郎に
激しい檄を飛ばした伊之助の、
「死んだ生き物は土に還るだけなんだよ べそべそしたって戻ってきやしねぇんだよ」を
『鬼滅の刃』英語翻訳版のネイティブ英語でどう訳された?という問題です。
問題
( )that dies returns to the earth... crying won't bring any of them back!
死んだ生き物は土に還るだけなんだよ べそべそしたって戻ってきやしねぇんだよ
※bring~back=~を連れ戻す
選択肢
①Nothing
②Something
③Everything
④Anything
答え
正解
Everything that dies returns to the earth... crying won't bring any of them back!
死んだ生き物は土に還るだけなんだよ べそべそしたって戻ってきやしねぇんだよ
※音声は合成です
③の「Everything」が正解でした!
文法的には他のも入りますが、意味がまったく変わりますので、③しか選べないという問題です。
解説
英文では続けて一文にまとめられていましたが、本来は二文なので、二文で分けて解説していきます!
「Everything that~」とは?
この文は、とてもとっつきにくく感じる文だと思います。
文法的には関係代名詞で、
先行詞が「everything」や「anything」の時は「that」にする、というものですが、
これをあれこれ解説するよりも、
まずはこちらの名言を見てもらうと理解がしやすいと思います。
(以下の4つの情報元:癒しツアー様)
Everything that has existed, lingers in the Eternity.
存在していたものすべては、永遠に生き続ける
(アガサ・クリスティー)
※exist=存在する、linger=生き長らえる、eternity=永遠
『そして誰もいなくなった』などを書き、
「ミステリーの女王」と言われた、アガサ・クリスティー(『名探偵コナン』の阿笠博士の名前の由来)の言葉です。
Everything that one thinks about a lot becomes problematic.
考え過ぎたことはすべて、問題になる
(フリードリヒ・ニーチェ)
※problematic=問題が多い
『ツァラトゥストラはかく語りき』などを書き、
「神は死んだ」という名言を残した哲学者、フリードリヒ・ニーチェ(マンガ・ドラマ『ニーチェ先生』の由来)の言葉の英訳です。
Love is life. All, everything that I understand, I understand only because I love.
愛は生命だ。私が理解するものすべてを、私はそれを愛するがゆえに理解する。
(レフ・トルストイ)
『戦争と平和』などを書き、
数々の小説を世に送り出したロシアの文豪、レフ・トルストイの言葉の英訳です。
いずれも似た様な使われ方をしていて、
日本語訳も同じような場所で、同じような役割をしていますね。
ポイント
Everything that ~
=~というもの/ことすべて
Everything that A B
=AというものすべてはBである
※A、Bにはそれぞれ動詞が入る
というように、
何か、格言めいたもの、
万物の真理を説いたものに使う表現とも言えます。
実はこの表現、
例文としてはよく出る形の文です。
たとえば辞書にも、「everything」の項で
ウィズダム英和辞典 第4版
Everything that happened is history.
起きたことは全部歴史だ
※強調は筆者
のように使われています。
日本語では後に出てくるものが、
英語では「Everything(すべての)」から始まるのは、
上記の名言たちの様に、
「すべてのことについて言えるんだ!」
という先制パンチみたいなものなのでしょう。
結論から言いたがる、実に英語らしい表現です。
なお、こういった表現は、
「Everything」の他にも、「Nothing」「Anything」「All」などでも使え、もちろん、名言にも使われています。
Anything that won’t sell, I don’t want to invent. Its sale is proof of utility, and utility is success.
売れないものは発明したくない。売れることが実用性の証明であり、実用性が成功を意味する。
(トーマス・エジソン)
Everything that dies returns to the earth
死んだ生き物は土に還るだけなんだよ
そこで本題。
上記を踏まえて、伊之助のセリフをもう一度見ていきましょう。
嘴平伊之助
Everything that dies returns to the earth
死んだ生き物は土に還るだけなんだよ
伊之助も、先ほどの偉人たちの格言の様に、
Everything that die
=死ぬものはすべて
という形で、「Everything(すべて)」を強調した文ですね。
煉獄さんが死んだシーンでこんなことが言えるのは、
伊之助は山で猪に育てられ、
常に生死のやりとりの中で生きてきたので、
「すべてのものは死ぬんだ」
という伊之助にとっての当たり前の事実として述べているんですね。
(と言いながら泣いちゃう所がこの作品の良いところです)
そしてその後に
returns to the earth
=大地に還(かえ)る
と続いていますね。
「eath」は「地球」という意味で有名な単語ですが、一般的には
「the Earth」のように、
大文字から始めると「地球」を表して、
「the earth」のように、
小文字で書くと「大地、地面、陸地」を表すので、今回はこちらですね
以上のことをまとめると、
ポイント
Everything that die returns to the earth
=死ぬものはすべて大地に還る
⇒死んだ生き物は土に還るだけなんだよ
ということになるんですね。
原作の
「還るだけなんだよ(当たり前のことなんだよ!)」
というニュアンスを出すために、
「Everything that」を使った表現にしたんでしょうね。
なお、
「dies」と「returns」が動詞として並んでいますが、
この「die」はあくまでも、
関係代名詞は「先行詞(この場合Everything)」の修飾表現の中の動詞だから、
という理解でいいんじゃないかなと思います。
(違うという人がいたら教えてください!!)
crying won't bring any of them back!
べそべそしたって戻ってきやしねぇんだよ
そして次のセリフ。
こちらは単語表現を知っていれば和訳は難しくない文ですが、
原作の雰囲気を再現している工夫が見られるので、それを一つずつ見ていきます。
動名詞の本当の役割
crying=泣くこと
動詞「cry(泣く)」に「ing」をつけて、
「won't」の前に持ってきているので主語の名詞になる、つまり「動名詞」ですね。
学校では「~すること」と習うアレですが、
ここで「crying」が使われているのは、
ただ単に「泣くこと」にしたかっただけじゃありません。
動名詞は、
動詞的ニュアンスを残した名詞なので、
ただただ泣いているというのではなく、
今まさに泣き続けている=べそべそ泣いている
ということを表現しているのです。
実際、
「べそべそ」だけで和英辞典で調べても、出てくるのは
sob=[動]ベソベソ泣く、べそ
whining=[形]ひいひい泣いている
ですが、それを使っていないところからも、
今、炭治郎が泣いているその「今」感を出すための動名詞だった、というのがよくわかると思います。
「bring back」と「take back」の違い
続く動詞パートは、
won't=will notの略
bring~back=~を戻す
won't bring ~ back
=~は戻せないんだ
となっていましたが、
「bring」は「持って来る」という意味の動詞で、
「back」という副詞を使う事で「~を戻す」という表現にしているわけですね。
それに「won't」を使って、「戻せないんだ」としています。
なお、
「戻す」を表す熟語に
「bring~back」と似た表現の
「take~back」がありますが、
「bring」は
「(こちらに)持って/連れて来る」、
「take」は
「(どこかに)持って/連れて行く」
というニュアンスの言葉で、
たとえば善逸が獪岳を、爺ちゃんの元に連れ帰るなら、
I'll take you back to Granpa.
=俺はお前を爺ちゃんの元に連れ帰る
みたいな形になります。
(状況的にあり得ない例文ですが)
自分ではなく、爺ちゃんのところに「戻す」わけですね。
しかし今回は、
自分たちの元に煉獄さんを「戻す」わけですから、「bring~back」なんですね。
「any of」と「some of」の違い
そして「bring~back」の間に入るのが、
any of=いずれかの
them=彼ら
any of them=(彼らの)いずれも
でした。
「of」は通常「~の」と訳される前置詞で、
「of them=彼らの」ということですね。
今回はその前に「any」がついていましたが、
any:否定文・疑問文で使う
some:肯定文で使う
と習うアレですね。
今回はその前に、
「won't」という否定文に使っているから「any」です。
ちなみになんで「any」が否定文で使われるかというと、
ポイント
一つもない事もあるのが「any」
そうじゃない複数は「some」
だからです。
今回の伊之助のセリフで言われているように、
死者は誰一人泣いても戻ってこないわけですよね。
つまり、
一つもないこともある「any」しかふさわしくないからなんです。
泣いて何人かは戻ってくる場合もあれば「some of」になります。
もちろん、そんなことはあり得ませんけどね。
これらのことをまとめてみると、
ポイント
crying won't bring any of them back!
=泣き続けていても、死んだ奴ら一人として戻ることはねえんだ
⇒べそべそしたって戻ってきやしねぇんだよ
という文だった、ということがわかるわけですね。
今日のまとめ
日本語と英語は語順が違うことで有名ですが、
今回の例文はまさに、
英語らしい語順の例で、「Everything」「crying」と伝えたいことに思いっきりフォーカスさせる文でした。
今日の言葉
Everything that dies returns to the earth... crying won't bring any of them back!
死んだ生き物は土に還るだけなんだよ べそべそしたって戻ってきやしねぇんだよ
しかし、
死んだら終わりと「当たり前」のことだと吐き捨てた伊之助も実は・・・
というわけで続きます。