公式twitterの、
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のBlu-ray&DVD発売記念カウントダウンの便乗企画。
(昨日までで)発売まで残り30日です。
毎日更新されるカウントダウンと一緒に出てくる各キャラのセリフが、
鬼滅英語版『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba』で、
どう英訳されているのか?
というご紹介をしながら、
わかりやすく英語の文法解説をしていきます!
(どうも土日はセリフ無しにするようですね)
目次
本日のセリフはこちら!
【あと30日】
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のBlu-ray&DVD発売を記念したカウントダウン。発売当日まで紡がれる全38日間。お楽しみいただけますと嬉しく思います。
「鬼にならないなら殺す」https://t.co/DAjvqcFjKT#鬼滅の刃 pic.twitter.com/jZJ4nXzq2a
— 鬼滅の刃公式 (@kimetsu_off) May 17, 2021
この、「鬼にならないなら殺す」を
『鬼滅の刃』英語翻訳版のネイティブ英語でどう訳された?という問題です。
収録は原作・英語版共に単行本8巻です。
問題
鬼にならないなら殺す
選択肢
①don't
②didn't
③won't
④wouldn't
答え
正解
鬼にならないなら殺す
※音声は合成です
③の「won't」が正解でした!
ひょっとしたら高校生より中学生の方が正答率が高い問題だったかもしれませんね。
解説
英訳が原作よりも長い表現になっていましたので、二文に分けて解説します!
If you won't become a demon,
鬼にならないなら
「if=もし〜なら」から始まり、
you=お前(主語)
won't become=ならない(述語動詞)
a demon=鬼
で、
If you won't become a demon,
=もしお前が鬼になるつもりがないなら、
⇒鬼にならないなら
となるわけですね。
「won't」は「will not」の省略形で、否定的な意思を表します。
具体的に言うとこのシーンでは、
「お前も鬼にならないか」という猗窩座の誘いに対しての、
煉獄さんの否定的な意思(will not=ならない)を表しているんですね。
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参考「お前も鬼にならないか?」を英語で?【★★】
『鬼滅の刃』の敵役は「鬼」ですが、その中の幹部クラスにあたる「十二鬼月」の中で、最も人気のある鬼が「猗窩座(あかざ)」ですね。 鬼になった過去も悲しいエピソードで、未読の方はぜひとも読ん ...
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then I'll have to kill you.
殺す
今度は「then=それなら」が来て、再び文が来る構造です。
実は「if ~ then ~」というのは定型表現です。
英熟語
if 文A then 文B
=(もし)AならばB
これ、プログラミングでお目にかかることの方が多いかもしれませんが、
条件Aに対して、結果(アクション)のB
を伝える・反応する表現なんですよね。
今回は、Aの部分で、
If you won't become a demon,
鬼にならないなら
という煉獄さんの否定的な条件を述べながら、
それを受けての猗窩座のアクションである、
then I will have to kill you.
=それなら俺はお前を殺す必要があるんだ
⇒殺す
につながるんですね。
「if 〜 then 〜」という文の構造上、
「if」の文節、「then」の文節それぞれに意思(未来)の「will」を入れて、
If you won't become a demon, then I will have to kill you.
=もしお前が鬼にならないなら、俺はお前を殺す必要があるんだ
鬼にならないなら殺す
となっているわけですね。
「will have to」
ちなみにこの文、
助動詞「will」の後に「have to」が来ています。
便宜上「have to」は
「助動詞みたいなもの(準助動詞)」と教えられることもありますが、
実際には「動詞+to不定詞」なので、
ここでは助動詞「will」の後の動詞として使われているんですね。
だからこそ、
I have to kill you
=お前を殺す必要がある
という表現に、
意思の「will」を追加して、
I will have to kill
=お前を殺す必要があるんだ
的なニュアンスにすることができるわけですね。
原作ではシンプルに「殺す」となっていますが、
英訳は「I'll kill you」や「I have to kill you」とせずに、
意思の「will」と義務の「have to」を両方使って、
自分の申し入れを断るのであれば絶対に殺さないといけない存在になる、
ということを明言しているわけですね。
「must」でも「have to」でもなかった理由
「will」と「have to」を重ねて表現するなんてなんか、
「まどろっこしい表現だなぁ」と感じる人もいるかもしれません。
でもそこには、
猗窩座が、最後の最後まで煉獄さんに「鬼になれ!」と言っていたことに秘密があります。
というのも、
猗窩座は、煉獄さんに死んでほしくなかったんですよね。
でも、
「鬼になる」という選択しか、生きる道を与えられないのが自分。
なので、
「しょうがなく」殺すことにしたんですね。
これが、魘夢や矢琶羽や沼鬼たちのように、命令が絶対だと考えている場合、
I must kill you
=俺はお前を殺さないといけない(でないと殺される)
のように、上から与えられたような「義務(must)」を使った英訳になると思います。
殺さなきゃ、自分が殺されてしまいますから。
たとえ勝てなくてもやらなきゃならないのです。
しかし、
猗窩座の場合、柱ですら殺せる実力があるので、
I have to kill you
=俺はお前を殺さないといけない(役目があるんだ)
と言っても、自分の役割として他に選択肢がない「義務」で、「must」じゃないんですよね。
「must」と「have to」の違い、そして「will have to」
「must」と「have to」は、義務の種類の違いで、
一般的には
must > have to
で義務の強さが違う、みたいに教えられることもありますが、
本質的な話をすると
「must」と「have to」の違い
must
主観的な「しなければならない」で、ルールや権威による強制的な義務
※助動詞⇒気持ちを表すため主観的
have to
客観的な「しなければならない」で、それ以外に選択肢がない義務
※動詞have+to不定詞⇒「すること(不定詞)」が「ある(have)」から客観的
という感じで、そもそもの「気持ち」が、違うんです。その結果として、義務の強さの差になるわけで。
今回の猗窩座の例文のケースは、
煉獄を気に入り、スカウトしたくらいですから、
「義務(must)」よりも「意思(will)」の方があるんですよね。
この辺が、「スカウト権」のある上弦の鬼ならではの思考です。
だけど、
自分が気に入ったからといって、
相手が鬼になるのを断るのであれば、
敵対する組織の幹部である鬼殺隊の「柱」である以上、
生かしておくことはできない、つまり「殺すしかない」わけです。
それが上弦の鬼が持つ(=have)使命ですからね。
だから、
「have to kill you」を選択するぞ、という
意思の「will」+義務の「have to」
を使った表現で、猗窩座の「想い」を英語で表しているんですね。
(もちろん、「will+must」は文法的にもNGですが)
この文は「仮定法」?
「If」で始まる文は「仮定法」
・・・という印象を持たれている方は多いと思います。
特に高校英語(大学受験)ではそういったすりこみがなされる傾向があり、私もそうして来たクチですが、
今年から中学の『学習指導要領』が改訂され、これまでは
20年度までの学習指導要領
中学で習う
「if+現在形」(仮定法現在)
高校で習う
「if+過去形・完了形」(仮定法過去、仮定法過去完了)
みたいな感じでしたが、新しいカリキュラムだと、中学で「仮定法過去」まで習います。
が、今回使われたのは「過去形」ではなく、
「won't」や「will」を使った現在形(未来形)を使った表現なので、仮定法ではなく、直接法なんですね。
難しく考えない方がいい文でした。
今日のまとめ
一つの文に色々な要素がからみ合っている文でしたが、
文法的にというよりも、それぞれの単語がどんな働きをしているのか?
に注目すると、意味がわかるだけでなく、「気持ち」もわかるよ、といういい例文でした!
今日の言葉
鬼にならないなら殺す
※音声は合成です