鬼滅の名言を英語で!

「生殺与奪の権を他人に握らせるな」を英語で?【難易度★★★★】

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今回は『鬼滅の刃』が普通の少年マンガとはちょっと違うテイストの作品だということを決定づけた、冨岡義勇さんの名ゼリフから。

 

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第1巻(集英社)

 

冨岡義勇

生殺与奪の権を他人に握らせるな!!

「生殺与奪の権」とは、文字通り、「生かすも殺すも与えるも奪うも思いのままにする権利」のことです。

それを他人に握らせようとするとは、お前はなんて馬鹿野郎なんだ、という厳しいメッセージですね。

 

敵でもないのに少年誌の第1話からこんなに厳しく接する人が今までいたのかと思うくらい厳しいです。

これが、『鬼滅の刃』英語翻訳版でどう訳されているか?という問題です。

英語にはこの「生殺与奪」という四字熟語に対応する決まった表現はありませんので、それをどういう文にまとめて表現するのでしょうか?

 

問題

生殺与奪の権を他人に握らせるな!!
Never(   )yourself so defenseless in front of an enemy!

※defenseless=〔形容詞〕無防備な

ヒント:①give ②grip ③leave ④hand

「Never」で始まる文がわからない方はまず、前回の内容を復習するとよいですよ!

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答え

 

Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.1

 

正解

Never leave yourself so defenseless in front of an enemy!
生殺与奪の権を他人に握らせるな!!

 

原作通りなら②の「grip(握る)」、英語っぽいなら①の「give(与える)」とか④の「hand(手渡す)」な感じがしたかもしれませんが、③の「leave]が正解でした!

今回はこの「leave」がテーマです!

 

 

解説

原作の日本語自体も難しいだけあって、英文そのものが中学生には厳しい高校レベル(大学受験レベル)の文でした。

 

なぜ、「生殺与奪の権を他人に握らせるな」のがこう訳されたのか?

なぜ、答えが「出発する、離れる、残す」という意味のある「leave」だったのか?

文をしっかり見ていけばわかってきますので、ちょっと長いですがお付き合い下さい。

 

「Never」で始まる文

この文には主語がなく、動詞は「leave」の一つだけです。

主語がなく動詞から始まる文は「命令形」になります。

しかし今回は「Never leave」という副詞がついた形で始まりますが、これでも、命令文の否定形(否定命令文)なんですね。

 

「Never」は、命令文の意味をとても強く否定する副詞です。

 

「Never+動詞の原形」で、

「絶対(死んでも)○○するな」という意味になるんですね(詳しくは下記)。

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ではそれがなぜ「grip(握る)」などではなく、「leave」になったのでしょうか?

そのためには、この文全体を理解する必要があります。

 

スラッシュリーディング

この文がやっかいなのは、文の意味がわかりにくいことです。

ただでさえ主語がない(見えない)上、原作の日本語と全然違う訳のように見えます。

 

難しい英文を理解するために使うのが、前から文の切れ目を見つける「スラッシュリーディング」です。

 

先ほど「Never+動詞の原形」の話をしましたので、まずはそこで切るとわかりやすいでしょう。

スラッシュリーディング

Never leave / yourself so defenseless in front of an enemy!

すると、最初の部分「Never leave」が「絶対に死んでもleaveするな」という意味になります。

実は「leave」という語は非常に多くの意味がありますから、一旦英語のままにしておきます。

 

次に続く文の切りどころに迷いますね。

 

スラッシュリーディングは「前置詞」「副詞」の前で文を切るのが基本です。

なぜなら、前置詞も副詞も、基本的にそれ以降の内容を細かく説明するための品詞だからです(たまに違う時がありますが)。

 

それを踏まえて、スラッシュを入れます。

スラッシュリーディング

Never leave / yourself / so defenseless in front of an enemy!

 

「so」は、副詞と接続詞の使い方がありますが、後ろに続くのが一つの語で文(節)になっていないので接続詞にはならず、「そんなに」という副詞になりますから、この前で切ります。

 

次に前置詞「in」から始まる「in front of an enemy(敵の目の前で)」を切ります。

特にこの文は、原作にはないような、文の中で大きな役割を持っていない「修飾語」なので、文を大きく切るために「//」を入れました。

スラッシュリーディング

Never leave / yourself / so defenseless // in front of an enemy!

 

こうすると、文を訳しやすくなります。

特に前半の「Never leave / yourself / so defenseless」をしっかり訳せれば、こっちのものです。

 

「yourself」と「so defenseless」

「yourself」は、「your(あなたの)」+「self(自己、自分)」で「あなた自身」を表します。

 

このシーンで冨岡さんが「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」と激怒したのはなぜでしょう?

本来、自分自身で持っていなければならない物が「生殺与奪の権」ですよね?

しかし、炭治郎はそれを、刀を持った未知の他人(冨岡さん)に委ねようとした。

だから、あんなこと怒ったんですよね。

 

それを英語として表現する時に、「お前自身が持っているべきことなのに!」という意味で「yourself」という言葉を使っているわけです。

 

もう一つの「so defenseless」ですが、この「so」は「そんなに」という副詞という説明をしました。

副詞は後ろに続く品詞の意味を強めたり弱めたりする存在ですが、今回は「defenseless」という見慣れない単語がついていましたね。

 

ただ、よくよく見ると、

「defense(ディフェンス、防御)+less(レス、ない)」という作りになっていますから、

辞書を引かなくてもだいたいの意味は分かってきます。

「defenseless=防御がない=無防備な」という意味なんですね。

 

ちなみに、こういった「+less」はけっこうあるので、おぼえておいて損はないですよ!

参考

後ろに「-less」をつけると、「○○がない、いらない」的な意味の形容詞になる

cashless(キャッシュレス)=cash(現金)+less(いらない)
borderless(ボーダーレス)=border(境界)+less(ない)
careless(ケアレス)=care(注意)+less(していない)

 

「leave」の使い分けを理解する

ここまでで、「yourself(お前自身のこと)」「so defenseless(そんな無防備に)」と訳せることがわかりましたが、この二つの語をどうくっつけるかですが、そのまま日本語で「お前自身のことをそんな無防備に」とすることもできますね。

そしてその前に来るのは、「Never leave(絶対に死んでもleaveするな)」なんです。

フィーリングでも出来そうですが、もう少ししっかり見ていきますね。

 

ここでいよいよ「leave」の意味を考えていきます。

 

「leave」には、非常にたくさんの意味があります。

英単語

leave
〔名詞〕休暇
〔自動詞〕出発する、旅立つ
〔他動詞〕を去る、を離れる、を残して行く、を放っておく、を預ける、を残す、を見捨てる、を辞める、を別れる、を任せる

 

辞書で探すと挫折したくなるくらい、たくさんあります。

そして、その使い分けで非常に困るのがこの「leave」です。

 

ここでは名詞ではないのはわかるにしても、「出発する」という意味のある「自動詞」と、「去る、離れる」などの意味がある「他動詞」のどちらを選べばいいかわからないですよね。

 

こういった時、めんどくさくなって「フィーリングで」選びがちじゃないですか?

少なくとも私はそうでした。

 

しかし、

「自動詞」か「他動詞」は、文の形によって決まるんです。

ポイント

自動詞:後ろに目的語をとらない。第1文型(壱ノ型)、第2文型(弐ノ型)

他動詞:後ろに目的語をとる。第3文型(参ノ型)、第4文型(肆ノ型)、第5文型(伍ノ型)

 

そこで、一度この文を「型」に当てはめてみることにします。

(主語自体は省略されているだけで「You」を当てはめます)

メモ

You(S) never leave(V) / yourself(O) / so defenseless(C) // in front of an enemy(M)

敵の目の前で(M) お前は(S) 自分自身を(O) そんな無防備に(C) 絶対にleaveするな(V)

「yourself(お前自身)=so defenseless(そんな無防備)」だから「O=C」の関係が成り立ちます。

だから、

「主語(S)+動詞(V)+目的語(O)+補語(C)」の、

「英語の呼吸・伍ノ型(第5文型)」になるんですね。

 

そうなると、後ろに目的語(yourself)をとる「leave」は「他動詞」になるわけです。

 

ちなみにこの、「leave+O+C」は大学受験では定番表現なので、おぼえて置いてもいいでしょう。

ポイント

leave+O+C=OをCのままにする

だから「Never leave(V) yourself(O) / so defenseless(C) 」で、

「絶対にお前自身そんな無防備のまましておくな」、という感じになるんですね。

 

なお、「keep+O+C」なども同じ「OをCのままにする」という「訳」になりますが、ニュアンスが異なります。

その理由もそうですが、今回冨岡さんのセリフがこの表現にされた真の理由に迫ります。

 

「leave」の本当の意味

日本人が英語で困るのは、「go=行く」というように完全対応する動詞ならまだしも、そうではない動詞があることですね。

「leave」もその一つです。

 

「leave」に色んな「日本語訳」があるのは、

日本語では「leave」を完全に表現できないからです

これは「生殺与奪」という日本語を英語で表現できないのと似ています。

 

そもそも、「leave」というのは、こういうイメージです。

ある場所から、(何かを置いて)離れていく時の動作を表す動詞(もしくはその様を描いた名詞)です。

だから、「出発する」でもあり、「去る」でもあり、「離れる」でもあり、「辞める」でもあり、物があれば「残して行く」でもあり、「預ける」でもあり、「残す」でもあり、そこに人がいれば「見捨てる」でもあり、「別れる」でもあり、「任せる」でもあるわけです。

 

ちなみに「leave」の「任せる」を使った、「後は任せろ」をという文もありましたが(下記)、あれも、「残りを置いていけ➡俺に任せろ」という意味だったわけです。

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つまり「leave」には「責任」の所在を移動させる、という意味があるんですね。

だから、原作通り「握る」を意味する「grip」とか、プレゼントする意味にもなるような「give」や、物理的に手渡す「hand」ではダメだった、というわけです。

 

冨岡さんの想いを英語にした

「生殺与奪の権を握る」という表現がない以上、それを英語で表現するには、その言わんとしていることを、同じようなテンションで伝わるようにしなければなりません。

だからこそ、絶対に(死んでも、金輪際)やってはならないという意味合いのある「Never」を使って、炭治郎の無責任なことを強く否定しているワケです。

さらに今回冨岡さんは、「in front of an enemy(敵の目の前で)」というオマケの修飾語をつけていますね。

これは原作にはありませんが、ただでさえ無防備に自分のことを他人に委ねた上に、それが目の前の敵なんだぞ、お前わかってんのか?

という意味の、「言葉の重さ」を増すために、あえて使ったんですね。

 

その後のシーンでも、

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第1巻(集英社)

刀を差し向けて、「守りたいなら斧を使え」と言っているわけです。

だから、これは完全に「an enemy(敵)」です。

それを目の前にして、お前は何土下座してんだと。

 

この「当たり前の真理」が出来てない炭治郎へ、「Never」や「leave」や「defenseless」や「enemy」という厳しい言葉を言わせることで、

原作の「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」を再現しようとしたわけです。

 

 

本日のまとめ

一見、重くなさそうな英文でも、色んな要素を組み合わせることで、重みを増すこともある、ということですね。

 

今日の言葉

Never leave yourself so defenseless in front of an enemy!
生殺与奪の権を他人に握らせるな!!

 

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