前回に引き続き、伊黒さんのあわや死亡フラグシリーズです。
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「伊黒さん嫌だ、死なないで!!」の英訳が「Don't die!」じゃない理由に愛を感じた件
今日は、 6/1に発売された、『鬼滅の刃』英語版22巻のワンシーンから、 「おっ!?これは愛じゃないか?」と思った英訳をピックアップしてご紹介します。 Demon Slayer: Kimetsu no ...
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(大変ネタバレあります)
今回も引き続き、『鬼滅の刃』22巻の英語版『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.22』から、気になる英語訳をピックアップしてご紹介します!
本日とりあげる名言はコチラ!
最終決戦で、鬼舞辻無惨を追いつめたかに見えた5人の柱ですが、
無惨の圧倒的な力の前に、経験の浅い、恋柱・甘露寺蜜璃(以下、甘露寺さん)が重傷を負わされます。
そして、甘露寺さんに明らかに思いを寄せている蛇柱・伊黒小芭内(いぐろおばない、以下伊黒さん)が、甘露寺さんを、無惨の攻撃の及ばないところにつれていき、一般隊士に甘露寺の手当を頼むと同時に、まだ戦おうとする甘露寺さんに「もういい 十分やった」として、「伊黒さん、嫌だ 死なないで!!」と泣きながら引き留める甘露寺さんを置いて無惨の元に戻る伊黒さん。
そんな伊黒さんの、甘露寺さんへの想いと、自身の過去が語られるエピソードの最後のセリフがこちらです。
この、「今度は必ず君に好きだと伝える」を
『鬼滅の刃』英語翻訳版のネイティブ英語でどう訳された?という問題です。
出典はコチラ!
問題
無惨を倒して死にたい
※defeat=「倒す」の現在分詞
And I pray that his death will purify my filthy blood.
どうかそれで俺の汚い血が浄化されるよう願う
※pray=願う、purify=浄化する、filthy=汚い
Then, if I am reborn as a human being... in a peaceful world without demons...
鬼のいない平和な世界で もう一度人間に生まれ変われたら
※reborn=生まれ変わる
I will( )you of my feelings for you.
今度は必ず君に好きだと伝える
選択肢
①speak
②talk
③teach
④tell
「伝える」をどの動詞で訳すか?という問題ですね。
それぞれの違いをハッキリ理解しているかが問われる問題です!
どれが、伊黒さんの気持ちを再現できているでしょうか??
答え
正解
I want to die defeating Muzan.
無惨を倒して死にたい
And I pray that his death will purify my filthy blood.
どうかそれで俺の汚い血が浄化されるよう願う
Then, if I am reborn as a human being... in a peaceful world without demons...
鬼のいない平和な世界で もう一度人間に生まれ変われたら
I will tell you of my feelings for you.
今度は必ず君に好きだと伝える
※音声は合成です
④の「tell」が正解でした!
解説
順序が逆になりますが、メインの文から解説していきます!
「speak」「talk」「teach」「tell」の違い
いずれも状況によっては「言う」「話す」と訳せる時もありますが、それぞれニュアンスが異なり、
伊黒さんの気持ちに合う単語をチョイスしなければなりません。
「speak」は、文字通り「話す」「話しかける」という意味で、そこにあまり「想い」は乗りません。
だからダメですね。
「talk」は、「会話する」という意味です。
告白に使う言葉ではないですよね?
「teach」は「教える」ですね。
ありえませんね。
「tell」は「言う」の一般的な訳ですが、「伝える」として使う事もよくあります。
なのでこの4択なら「tell」一択です。
なお、「tell=言う」を使った例文は下記にてご紹介しています。
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I will tell you of my feeling for you.
今度は必ず君に好きだと伝える
そこでいよいよ本題。
「I will tell you~」は、
「私はあなたに~を伝える」という定型表現で、非常に良く使われます。
定型文
=私はあなたに~を伝えます/~を言います
そして上記の「~」に当たる部分は、今回は
of my feelings=私の気持ち
for you=あなたへの
で、「あなたへの私の気持ち」が入りますね。
以上のことをまとめて直訳すると、
I will tell you of my feelings for you.
=俺は君への気持ちを伝える
(原作)今度は必ず君に好きだと伝える
となります。
原作では「好きだと伝える」となっているので、
「I love you」とか使うのかと思いきや、
(隠していた)自分の想いを伝えるという表現に変えているのが興味深いですね。
「I love you」と言わなかったのはナゼ?
このシーンは、これまでさんざん
「伊黒さんは明らかに甘露寺さんが好き」というフラグを立ててきた中で、
ここに来て初めて甘露寺さんへの気持ちを言葉にしたシーンですよね。
と同時に、この回は、
伊黒さんがマフラーをしていること=自分がさらけ出せない「汚点の象徴」があることが読者に対してのみ明らかにされるシーンですが、
それはつまり、
伊黒さんが甘露寺さんへの「君への想い(my feelings for you)」をあえてひた隠してきた理由が明かされる回でもあるんですね。
注意ポイント
「feeling」は日本語の「フィーリング(なんとなく)」とは違って、「想い」「気持ち」「愛情」を意味します。動詞「feel」の動名詞が名詞化したものです。
それを、
意思の表明である「will」を使った表現、
「I will tell you」を使うことで、
それはもう「好き」というに決まっているじゃん、ということなのでしょう。
通常は、日本語の方が「好き」という言葉をハッキリ言わないと言われていますが、
英語翻訳版の場合は逆に、「love」という言葉を使わずに、死ぬまで伝える気のなかった「自分の気持ち(しかもfeelingsという複数形)」を伝えるということの方が、強い想いを表す言葉になる、と判断したからかもしれませんね。
たくさんの想いを凝縮して、生まれ変わった時に伝えるという感じでしょうか?
なお、
英訳では「今度は必ず」に対応する単語がありませんが、
その前の文で「Then, if...(それにもし…)」と言っているので、あえて入れる必要もない、として抜いた可能性もあります。
また、
「必ず」というのは「意志」の表明ですから、それは日常使いの「I'll」ではなく「I will」としているところに意志の強さが見られますし、
「今度」というのをそのまま英訳すると「next time」などとちょっと野暮ったい感じになるので、あえて省いたのかもしれませんね。
解説②~それ以外の文の解説~
I want to die defeating Muzan.
無惨を倒して死にたい
「want to+動詞の原形(to不定詞)」の文ですね。
一般動詞「die」は「死ぬ」で、
その後の「defeating」は「倒す」という一般動詞の現在分詞(-ing形)です。
動詞の後に動詞が続くのはヘンな感じがしますが、
動詞をそのまま使うのは「御法度」なので、「-ing形」の副詞にして、
I want to die=俺は死にたい
defeating Muzan=無惨を倒して
という形で、後ろから追加の説明をしているわけですね。
このような、「ing形」の追加説明は「分詞構文」と呼ばれるもので、副詞として機能します。
And I pray that his death will purify my filthy blood.
どうかそれで俺の汚い血が浄化されるよう願う
接続詞「and」の後は、
I pray that~
=俺は~と祈る/強く願う
という「that節」ですね。
「that」は接続詞的に機能して、後は「節」になるので、
主語:his death=無惨の死
(述語)動詞:will purify=浄化する
目的語:my filthy blood=俺の汚い血
his death will purify my filthy blood
=彼の死が俺の汚い血を浄化する
という、主語+(述語)動詞+目的語という第3文型(英語の呼吸・参ノ型)が来て、
それを強く願っている、という文でした。
「purify」「filthy」となかなかお目にかからない単語が出てくるのが鬼滅らしいですね。
Then, if I am reborn as a human being... in a peaceful world without demons...
鬼のいない平和な世界で もう一度人間に生まれ変われたら
「then」は、前の文を受けての「そうなれば」的に使うものですね。
「if」は仮定の話で、それぞれ要素を分解してみてみると、
if=もし
I am reborn=俺が生まれ変わる
as=~として
human being=人間
in a peaceful world=平和な世界で
without demons=鬼のいない
となって、これをまとめると
if I am reborn as human being... in a peaceful world without demons...
=俺が鬼のいない平和な世界で人間として生まれ変わったら
(原作)鬼のいない平和な世界で もう一度人間に生まれ変われたら
という意味になるわけですね。
「human being」ってなに?
なお、「human」だけでも「人間」という意味ですが、
生きものの中であえて人間を指したい時は「human being」という表現を使います。
日本人の輪廻転生感としては、「生まれ変わる」つまり「輪廻転生」の考え方は当たり前の感覚であり、しかもそれが「人間以外」もあり得るという考え方が一般的ですよね。得に鬼滅の時代は今以上にそうだったと思われます。
だからこそ、織田信長が柴犬に転生する、というマンガがあるわけで(面白いですよ)。
ですから、伊黒さんの「人間として生まれ変わったら」というのは、そういう思想が日本人にあって(正確にはアジア人的思想)、動物に生まれ変わるかもしれないけど、その中でも「人間(human)」という「存在そのもの(being)」に生まれ変われたら、という意味でいっているので、「human being」になっているんですね。
英単語
[名詞]~な生きもの、~な存在、
[例]human being=人間、supernatural beings=超自然的存在
あ、もちろん「being」は「be動詞」の原形「be」の「-ing」形ですよ!(これは動名詞)
今回は「-ing」の使い方がいろいろありましたが、あまり深く考えずに、
「動詞」を使えない時に動詞を使って表現したい!
という時に「-ing」を使うんだ、と理解しておくだけでもだいぶ違いますよ!
今日のまとめ
例文はシンプルでしたが、英語っぽい表現での訳でした。
マンガや小説の翻訳の場合、映画と違って、一文一文訳すわけではなく、全体の文脈の中で訳されているので、一言だけ取り出すと「?」という訳も見られますが、前後の訳を見ると「なるほどこう訳したのかぁ」と思う事もあり、本日のはそういう例の一つでしたね。
一文一文の「対訳」がいい、映画タイプがいい、という方は、先日発売された『鬼滅の刃~無限列車編』の日本発売版にも英語字幕がついていますので、其方をお楽しみいただければと思います。
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今日の言葉
I want to die defeating Muzan.
無惨を倒して死にたい
And I pray that his death will purify my filthy blood.
どうかそれで俺の汚い血が浄化されるよう願う
Then, if I am reborn as a human being... in a peaceful world without demons...
鬼のいない平和な世界で もう一度人間に生まれ変われたら
I will tell you of my feelings for you.
今度は必ず君に好きだと伝える
※音声は合成です