よく考えたら最初にやるべきでしたが、『鬼滅の刃』というタイトルを英語翻訳版ではどう訳されたのか?という問題。
このサイトでは引用元としてすでに至る所に書いていますが、改めて。
問題
※slayer=殺す人、物
鬼滅の刃
答え
正解
『デーモン・スレイヤー』が正解でした!
解説
『鬼滅の刃』という言葉をそのまま直訳しなかったところがポイントですね。
「鬼」を英語で?
『鬼滅の刃』英語翻訳版では、「鬼=demon」で統一されています。
よく、ゲームに出てくる「鬼」、たとえば、知能は高くないけれどたくさんいる「ゴブリン」、体が大きく力強い「オーガ」、一つ目の巨人「サイクロプス」などがありますが、これらはいずれも「ファンタジー」用語で、文化によって姿が異なり、一般的な用語としての「鬼」ではありません。
英語の「demon(デーモン)」は「悪魔」という意味があるので、「なんでdemon?」と思った方も多いと思います(私もそうです)。
しかし、「demon」には「悪魔」の他に「鬼」という意味もあり、まったく的外れとも言えません。
ちなみに「悪魔」を指す英語の言葉はほかにも「devil(デビル)」がありますが、これにも「鬼」という意味が含まれますが、「devil」が表している物は、「善の体現者・神と敵対する悪の魔族=悪魔」ということになります。
『鬼滅の刃』の世界観に「神」はないから、神と戦う「devil」というものは適さない・・・よって、悪を体現する「demon」を「鬼」の翻訳としてチョイスしたのでしょう。
英単語
「滅」を英語で?
「鬼滅」の「滅」は、「滅ぼす」という意味ですね。
通常、「滅ぼす」というのは英語で「destroy(破壊する)」という言葉が使われますが、「鬼滅」英語翻訳版では「slayer」という聞き慣れない単語が使われています。
英単語
「slayer(スレイヤー)」とは、虐殺者、という物騒な用語なんですね。
どうりで見たことないわけです。
ちなみに「slayer」の元は「slay(虐殺する、殺害する)」という動詞で、後ろに「er」をつけると、「虐殺する人=虐殺者」「殺害する人=殺人者」という名詞になります。
こういった物は結構多いので、最後に「er」や「or」がついたら、それは「○○する人」という名詞で、「er」や「or」を取れば動詞になる、とおぼえておくと便利です。
ポイント
動詞の最後に「-er」や「-or」をつけると「○○する人」という意味になる(ことが多い)
「-er」の例:play(試合をする)⇒player(選手)、teach(教える)⇒teacher(教師)
「-or」の例:act(演じる)⇒actor(俳優)、visit(訪問する)⇒visitor(訪問者)
『鬼滅の刃』は、日輪刀に「悪鬼滅殺」と彫られているように、「鬼を滅ぼす」のが目標というお話ですから、「虐殺者」という意味でもおかしいことではありません。
でも、そうなると、『鬼滅の刃』の、「刃」はどこ行っちゃったんでしょう??
「刃」を英語で?
「刃」というのは、刀や剣の切れる部分ですね。
英語では、「blade(ブレード)」という単語がそれに当たります。
実際、『鬼滅の刃』英語版『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba』では、原作で「刃」と書かれているシーンは「blade」で翻訳されています。
桑島慈悟郎
Become a blade... that's stronger than anyone!(誰よりも強靱な 刃になれ!)
しかし実際は、「Demon Slayer=鬼の虐殺者」という意味で完結してしまって、「の刃」の部分がまるでゼロな感じがします。
せめて、「Blade of the Demon Slayer」みたいにくっついていたらよかったのですが、「blade」はありませんから、「Demon Slayer」だけ見ると、なんか物足りない、なんか変な翻訳のような感じがします。
でもちょっと待ってください。
「blade」を使わない理由が実はあったんです。
「○○スレイヤー」
聞いたことがある方もおられるかもしれませんが、「○○スレイヤー」というのは、日本のフィクション・ゲームなどでたまに登場します。
今もっとも有名なものだと、『ゴブリンスレイヤー』というライトノベル・マンガ・アニメがありますね。
この作品は、ファンタジー世界で最も最弱だけど、かなり迷惑でやっかいなゴブリンだけを狩り続ける戦士のお話です。
敵はゴブリンなのですが、意外と深いお話で大人向けのハードな作品です。
そもそもこの「○○スレイヤー」ですが、意味的には、「○○を狩る者・武器」「○○を退治する者・武器」という意味で使います。
先ほどの「ゴブリンスレイヤー」も、作中で「ゴブリンを狩る者」として紹介されています。
「○○スレイヤー」で、特に英語圏でポピュラーなのが、「ドラゴンスレイヤー(Dragonslayer」と呼ばれる、ドラゴン退治の物語です。
英語版Wikipediaにもちゃんと「Dragonslayer」という項目があり、色んな国に、色んな「ドラゴン退治」のお話があるそうです。
ドラゴン退治?
ただ、日本では「ドラゴン退治」のお話なんて聞いたことはないと思います。
というのも、日本(およびアジアの)「ドラゴン=龍」は、ドラゴンボールの神龍(シェンロン)に代表されるように、一般的には龍=神様ですね。
(先ほどのWikipediaの項目にも、日本の「龍退治」の話にヤマタノオロチが入っていましたが、あれは蛇ですよねぇ)
ですが、ヨーロッパ圏の「ドラゴン」は、(なぜか)金銀財宝を集め、王国の姫をさらい、空を飛び、火を噴く、という感じで、ドラゴン=悪の化身です(なんか、『スーパーマリオ』のクッパみたいです)。
そんな悪いドラゴンの居城に向かい、姫を救い、ドラゴンを退治する勇者、もしくはその武器(主に剣)のことを「Dragon Slayer(ドラゴンスレイヤー)」と言うんですね。
我々日本人は「○○退治」というと「鬼退治」を思い浮かべますが、
英語圏で「○○退治」と言えば「Dragon Slayer」になるんです。
ですから、
『鬼滅の刃』も大きく見れば「鬼退治」の話なので、
「鬼=Demon」だから「Demon Slayer」となった、
と考えることができますね。
なお、肝心の「刃」の件ですが、
「○○ Slayer」には「○○を退治する勇者もしくはその武器」という意味があるので、そこに含まれていると考えられます。
実際、ゲームなどによっては「ドラゴンスレイヤー」という名の武器(主に剣)が登場することもあります。
「○○ slayer」に「○○を倒す武器」という意味もあるので、『鬼滅の刃』を「Demon Slayer」という訳は、全然おかしいわけじゃないんですね。
ただ、原作の意味も残しておきたかったというのも影響してか『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba』と日本語読みもついてますけどね!
(本記事はnoteの内容をリライトしました)
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