今回のテーマは「want」です。
かなりよく使うわりに、あまり深掘りされない単語ですが、その理由は実に単純で、
ポイント
want =ほしい
want to=したい
という風に訳すことができるからですね。
特に学校のテストは、これさえ暗記しておけば、点はとれます。
でも、その感覚のまま、ネイティブ英語に触れるとどうなるでしょう?
さっきの、
「want=ほしい」や
「want to=したい」のような
“公式”では説明しきれないシーンが出てきます。
たとえば、『鬼滅の刃』第2話で、鬼になった禰豆子を日中も連れ歩くため、炭治郎が、農夫に捨てられていたカゴをくださいと頼んだ後、炭治郎が3回も「払います」を言い続けたシーンの(内の2回目と3回目で)、英語版との比較をしてみましょう。
こちらでは、
右コマに2回目、左コマに3回目の「払います」「いらん」が書かれていますが、それぞれ、
右コマ
炭治郎:いえ、払います
〔英訳〕Please let me pay.(払わせて下さい)
農夫:いや、いらん
〔英訳〕No, thank you.(いいえ、結構ですよ)
左コマ
炭治郎:でも払います
〔英訳〕But I want to pay!(でも払いたいんです!)
農夫:いやいらんて!!
〔英訳〕We don't want it!(俺らはそんなのいらんって)
と、なぜか別々の英訳がされているんですね。
これ、なぜだかわかりますか?
「want」の本質を知れば、この理由が見えてくるのです。
目次
「want」はいったい何?
「want」と「want to」の違いを比べる前に、そもそも「want」ってナニっていう話からしていきましょう。
そもそも「want」って何?
「want」は「ほしい」と訳される一般動詞です。
一般動詞というのは、
「go」とか「study」とか「eat」とか、be動詞(amとかisとか)以外の動詞のことです。
動詞というからには、
「動き」があることに使うと思うかもしれませんが、
「like(好き)」とか「feel(感じる)」も動詞(一般動詞)です。
体の動きじゃなくて、心の動きを表すのも動詞です。
その、一般動詞「want」も、
「ほしい」という心の動きを表している動詞で、
本来の意味は、
「want=欠乏している」です。
「ほしい」は「ほしい」んですけど、
マイナスから来る「ほしい」なんです。
マイナスから来る「ほしい」
『鬼滅の刃』英語版でも、マイナスから始まった「ほしい」という感情があふれたシーンで、「want」が使われていました。
不死川玄弥
Katana! I want my katana! and I want it now!
刀だよ刀!! 今すぐ刀をよこせ!!
A Demon Slayer Corps katana!! A color-changing katana!!
鬼殺隊の刀!! "色変わりの刀"!!
最終選別に合格したのち、無礼で乱暴な態度で、鬼殺隊の色変わりの刀(日輪刀)をよこせとつかみかかる玄弥のシーンですね。
このコマの中で玄弥は、
大事な伝令役の鎹鴉(かすがいがらす)を払いのけたあげく、
自分より明らかに力もない、しかも女の子の前髪をつかんで、
「刀」を5回(英語では1回「it」になってる)連呼しています。
(お兄ちゃんの実弥が知ったらきっと半殺しでしょう)
が、それだけ強く欲しているのがわかっていただけるかと思います。
とにかく強くなって、速く兄に追いつきたいという気持ちがこの根底にあるのです。
まさに、マイナスから来る「ほしい」ですよね。
さすがにこれは極端な例で、
「want」を使う時がいつも、こんな必死かというとそういうことではないのですが、
それでも、
「want=ほしい」という単純な意味だけではなく、
「want」が「(強く)欲する」という気持ちが入っているイメージを持つ動詞だということですね。
この、動詞「want」の持つイメージが大事です。
「want to」はいったい何?
「want to~=~したい」?
このように、
「ほしい」というシチュエーションで使うのが「want」、というのはわかっていただけたと思いますが、
だったら、
「want to」はどういった時に使うか、というと、こんな時に使います。
(アニメ派の人は劇場版の内容を含みますので注意!)
こちらは、絶賛上映中の劇場版『鬼滅の刃~無限列車編』にもあった、炭治郎が家族との幸せな時間を過ごしていたけれど、行かなくてはいけなくなったシーンです。
竈門炭治郎
I want to stay here forever.
ここに居たいなあ ずっと
※forever=[副]永遠に、ずっと
I want to turn around and go back.
振り返って戻りたいなあ
※turn around=振り向く
※go back=戻る
こちらの二つの文で、「want to」の後に続いているのはなんでしょうか?
want to stay here
want to turn around and to go back
※andは「want」にかかっているため動詞が並列
というように、
stay=留まる
turn=向く
go=行く
いずれも一般動詞ですね。
今回はその後にそれぞれ副詞がつくことで、
stay here=ここに留まる
turn around=振り返る
go back=戻る
という意味になり、
ここに、「I want to~=俺は~したい」を当てはめると、
「(俺は)ここに居たい」
「(俺は)振り返りたい」
「(俺は)戻りたい」
になるんですね。
いずれも、
「want」を使っているだけあって、
炭治郎の、失われた家族との幸せな時間(つまりマイナス)から生まれた、強く欲する気持ちがよく表れているシーンですね。
そしてそれが叶わず、乗り越えていく過程を描くからこそ、よけい、人の心(特に、人生で取捨選択をくり返してきた大人の心)を打つわけですが・・・。
「want to」は助動詞!?
このように、
動詞の前に「want to」をつけるだけで「~したい」という意味になるわけですが、
「want」だけと同じように、マイナス(欠乏)から来ているということがわかっていただけたかなと思います。
それにしても、先ほどの文をよく見ると、ちょっと不思議な気がしませんか?
「want」が動詞なのに、
「stay」とか「turn」とか「go」などの動詞が後ろについて来るんです。
実際、以下の二つの例文を見比べてもらうと、その不自然さがよくわかります。
参考
I go to Mt. Sagiri.
=俺は狭霧山に行く
I want to go to Mt.Sagiri.
=俺は狭霧山に行きたい
上の「go to」の例は、
「to=~へ」とスムーズに理解できると思いますが、
下の「want to+go to」の例は、
「want to」の後に、さらに一般動詞「go」を使った「go to」が来ます。
なんじゃそりゃ?ですよね。
私は学生時代、この理由が
いっっっっさいわかりませんでした。
実際、学校現場では、
「そういうものだ」として教えられがちですので、丸暗記するしかありません。
「want to~=~したい」なのです。
だから私は、
「want to」を「can」や「will」などと同じような、助動詞だと思っていました。
(have toみたいに)
「can」も動詞の前に置くだけで「~できる」という意味をプラスできますからね、それと似たようなもんじゃないかと。
「want to」は助動詞!?
しかし、
「want to」は助動詞ではありません。
なぜなら助動詞であれば、
否定文は「助動詞+not」
疑問文は「助動詞から始める」
ハズですが、「want to」を使ったものはそれぞれ、
愈史郎
I don't want to be away from lady Tamayo! Not even for a moment!
俺は珠世様から離れたくない 少しも!!
珠世(愈史郎回想)
Do you want to live?
生きたいと思いますか?
Truly? Do you want to live even if you cease to be human?
本当に 人でなくなっても生きたいと
※even if~=たとえ~でなくても
※cease=終える
と、助動詞のない文と同じく「do*」を使うからです。
*三単現ならdoes、過去形ならdid
「want to~」は○○である
ええ~、じゃぁ「want to」ってなに!?
その答えは、先ほどの愈史郎の否定文の中にあります。
愈史郎
I don't want to be away from lady Tamayo! Not even for a moment!
俺は珠世様から離れたくない 少しも!!
※away from=~から離れて
「want to」の後が「be」でしたよね?
「be」ってなんですか?
「am、is、are」の「be動詞」の原形です。
離れたくない「状態」ということです。
-
参考鬼滅の刃の名シーンでわかる「be動詞」の役割
今回は、 簡単なように見えて多くの人がよくわかっていない 「be動詞」の本当の役割について、 いつものように『鬼滅の刃』英語版から大事なポイントを学びましょう。 Demon Slayer: Kimet ...
続きを見る
ちなみに、
これまで紹介した「want to」の後の一般動詞「stay」「turn」「go」も、すべて原形でした。
つまり、「want to」とはいうけど
「一般動詞want+to+動詞の原形」
なんですね、実は。
そして、
「to+動詞の原形」でピンと来た方いらっしゃるかもしれませんが、
実はこれ、「to不定詞」なんですね。
学校では「want to」として習いますが、
本当は「want+to不定詞」(want to do)なんですね。
驚きじゃないですか??
「want」の本質
しかし、
実際問題、「want+to不定詞」と教えてもらうことはありません。
理由は実にカンタンで、
「want=ほしい」「want to~=~したい」とおぼえた方が早いからですね。
では、そもそもなぜ、
「want=ほしい」
「want to=したい」
で丸暗記すればよいことを、なぜここまで深く掘り下げる必要があったか?
それは、
「want」の本当の意味をわかってほしいからです。
「want to」は「○○がしたい」ではない
ここで最初の、「なぜか最後はwant」になったやりとりをもう一度見てもらいましょう。
最後のコマのセリフが太字のゴシック体になっているように、「払います」「いらんて」のやりとりの中で、ここが一番意味が強い言葉になっているんですね。
炭治郎は、
「払います」を連呼して「どうしても払いたい」という気持ちを、
農夫は、
「いらん」を連呼して「どうしても受け取りたくない」という気持ちを、
「want」や「want to」を使って表現しているわけですね。
その前のコマの「Please let me pay.」なんて、「払わせて下さい」というテンションなのが、「どうしても払いたいんだ俺は!」となっているという心から欲する気持ちを表現するために、
「I want to pay!」と訳したわけですね。
(そしてそれに対抗するために、農夫も「don't want」になっています)
それがあるからこそ、「納めてください小銭ですが!!」につながるワケです。
ただただ、機械的に翻訳しただけでは、炭治郎の気持ちが伝わらないと判断したわけですね。
(あと、英語は同じことをくり返さないという文化もあると思います)
「want」も「want to」も同じ"気持ち"
なんだかややこしく感じるのは、
「want」や「want to」を、
それぞれ「ほしい」「したい」という、日本語に当てはめて考えているからです。
そもそも、
言葉は、言動や様子を形にしたものです。
これは日本語も英語も同じ。
でも、日本語と英語はルーツがまったく異なる所で生まれて、発展してきたので、ピッタリ訳が当てはまらないことも多々あります。
実は「want」もその一つ。
えっ、ちょっと待ってよ。
「want=ほしい」「want to=したい」って訳があるじゃん?
・・・と思った方もおられると思いますが、それはあくまでも、当てはまるような日本語を選んだだけです。
日本で教える英語の常識では「別の意味」になる「want」と「want to」ですが、
英語圏の人からしたら、「want」も「want to」も、同じです。
理由は実にカンタンです。
「want」は「want」だからで、
その後に付くのが、何かという違いしかないからです。
まとめてみるとわかりやすいです。
ポイント
「want」の後に、
「katana(刀)」などの名詞が来たら「[名詞]がほしい」
〔例〕I want a new pen.(新しいペンがほしい)
「want」の後に、
「to不定詞」が来たら「[動詞]をしたい」
〔例〕I want to play soccer.(サッカーをしたい)
になる、と。
「[動詞]がほしい」という日本語はヘンだから、「[動詞]をしたい」としているだけなんです。
「want」と「want to」の違い
実際、
I want the truth.(真実を知りたい)
のように、「want to」ではないのに「したい」と訳すこともあります。
ですから、「want」と「want to」の違いは、あくまでも、
「want」という一般動詞の後ろにつくものによって、「日本語訳」が違うだけであって、
言っていることは、
「want ○○=○○を欲している気持ち」
ということなんですね。
それが、
名詞なら物だから「ほしい」だし、
動詞なら「したい」になることが多いだけです。
あくまでも日本語の都合です。
日本語で理解しようとするから難しいだけ、テスト用の覚え方をしているから難しいだけです。
「to不定詞」だとわかりづらい?
また、「不定詞」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、
超カンタンに言うと、
「動詞を使った説明をしたい時に使うもの=動詞"的"なもの」と理解しておけばOKです。
"的"だから動詞ではないので、時制や人称の影響を受けず、単語のイメージを表す「原形」で使うのです。
なので、
I want to stay here forever.(ずっとここに居たい)
を英語的に理解すると、
I=俺は
want=心から欲する
to stay here forever=ずっとここに居ることを*
(*wantは基本他動詞なので、後ろの語句は目的語になり「~を」になる)
・・・というような感じになるわけです。
「居ること」を「居る的なこと」と考えると、動詞っぽくなくなってわかりやすいかもしれません。
(俺は 心から欲する ずっとここに居る的なことを)
to不定詞で、動詞を使ったひとかたまりの名詞にしてしまえば(名詞的用法)、
一般動詞「want+名詞」の文の構造とまったく同じですよね?
これなら、助動詞だと勘違いすることもありません笑。
これが英語の感覚であり、英語の呼吸なんですね。
「こんなことやらなくても、want to=したいでいいじゃん!」
という意見もあると思います。
確かに、
「I want to~」の形で使うことの方が圧倒的に多いので、まるごと「~したい」とおぼえた方が便利で簡単で早いです。
(なにより「テストの問題」がそう書いてありますし!)
しかし、
「want」の本質を理解しておくと、
鬼滅の刃の英語翻訳版のようなネイティブ英語の理解がしやすかったり、
「want you to」や「would like to」との違いが、スムーズに理解できるのです。
(この解説はまた後日)
なぜなら、
「want」は「want」だからで、「ほしい」じゃないからです。
まとめ
「want」は、自分の欲求を表現する言葉なので、自己主張をハッキリした方がいい英語圏では、シンプルでメチャメチャ使える重要な単語です。
それだけに、間違った使い方をすると「?」となりがちです(この辺はまた後日)。
もちろん、
「want=ほしい」「want to do=doしたい」
でおぼえておくのもいいのですが、それプラス、根っこにある「want」は同じ、として理解しておくのことが大事です! よく使うからなおさら!