『鬼滅の刃』の第1話は、連載当初から連載終了の最後まで「少年誌とは思えないキビシさ」を貫いた作風の原点となる回です。
この回で、日和らず、命は平然と奪われることがあるという現実があるという世界観をぶち上げ、その中で命がけで生きているキャラクターたちに、本当に命を吹き込んだわけですね。
さて、今回はそんな1話から、厳しい現実を突きつける嫌な役回りを演じた冨岡さんの有名なセリフ、「生殺与奪の権を他人に握らせるな」の後に続いたセリフを取り上げます。
冨岡義勇
なぜ斧を振らなかった
なぜ俺に背中を見せた!!
これを『鬼滅の刃』英語翻訳版のネイティブ英語でどう訳された?という問題です。
(「そのしくじりで妹を取られている」の部分は次回にやります)
問題
( )didn't you throw your hatchet?
なぜ斧を振らなかった
※throw=投げる、hatchet=手斧
( )did you show me your back?!
なぜ俺に背中を見せた!!
※back=背中
ヒント:同じものが入ります
答え
正解
Why didn't you throw your hatchet?
なぜ斧を振らなかった
Why did you show me your back?!
なぜ俺に背中を見せた!!
日本語の「なぜ=Why」という、まんまな問題でした!
解説
片方が否定、片方が肯定の文でしたが、ともに「なぜ=Why」を使った過去形の疑問文でした。
ただ、前回ご紹介した「Why don't you~?(~しないか?)」の過去形に思える「Why didn't you~?」の訳がなぜこういう形になったのかの理由もありますので、しっかり見ていきましょう。
「Why」を使った疑問文
今回は文の順序を逆にして解説していきます。
まずは2つめの文に、「do」を「did」にした、
冨岡義勇
Why did you show me your back?!
なぜ俺に背中を見せた!!
が使われていましたね。
このように、疑問文を過去形にするには、助動詞があれば助動詞を過去形にするだけです。
このシチュエーションでは、冨岡さんは炭治郎のが背中を見せて禰豆子に覆い被さる行為をした、という過去のことを話題にしているから、過去形の疑問文になるわけですね。
ポイント
過去のことを問う疑問文は、助動詞*の部分を過去形にすればいい
*一般動詞の場合。be動詞の場合は、助動詞の部分にbe動詞が入るのでbe動詞を変える
〔現在形〕
Why do you show me your back?!
(なぜ俺に背中を見せている!!)
〔過去形〕
Why did you show me your back?!
(なぜ俺に背中を見せた!!)
「Why don't you~?」と「Why didn't you〜?」の違い
順序が逆になりましたが、1つめの文も、同じ過去の疑問文ですね。
違いは、「did」が「didn't」と否定の形になっている疑問文というところです。
普通に考えれば、過去形にするだけなら、先ほどと同じように、「do」を「did」にすればよいような感じがします。
でも、否定の疑問文「Why don't you~?」には、「~しないか?、〜しませんか?」という意味がありました。
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そう考えると、素直に「don't」を「didn't」にしてよいのか?
・・・いいです!
というよりも、「Why don't you~?=~しないか?」を過去形にするのはとてもヘンなんです。
そもそも、「Why don't you~?」が「~しないか?」になったのは、
「なぜ~しないの?(えっ、しないの?した方がいいよ!)⇒~しないか?」になっているわけです。
ちょうど、猗窩座が、煉獄さんに「(メリットが一杯だから)鬼にならないか?」と勧誘したときの感じです。
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でも、それを過去形にするっておかしなことになりませんか?
「なぜ〜しなかったの?(えっ、しなかったの?した方がよかったよ!)」
を、
「〜しなかったか?」
・・・という感じになりませんよね?
だから、「〜しないか?」の過去形はなく、過去形「Why didn't you~?」の場合は文面通り「なぜ~しなかった?」ということになるのです。
今回は、炭治郎が斧を投げずにうずくまったことを冨岡さんが詰問(責めながら質問)しているわけですから、
冨岡義勇
Why didn't you throw your hatchet?
なぜ斧を振らなかった
と文字通り過去形の疑問文として訳された、と言うわけです。
「Why=なぜ」となる時
なお、実は現在形の「Why don't you~?」でも、普通に「なぜ~しないのか?」という意味の時もあります。
ただ、そういう使い方は学校英語ではあまり出てきません。
というのも、日本語でもそうですが、「なぜ?」と言われると、責められている感じがしますよね?
だから、友だち同士とかの対等な関係、もしくは、上から下に言う時ですね。間違っても、下の人間が上の人間に言う時は使えません(ボコられます)。
今回の冨岡さんがまさにそう。
上から目線で、炭治郎に対しても「なぜ斧を投げなかった!なぜ背中を見せた!」と責めているわけですよね。
英語でも日本語でも、こういう時は「Why do you〜?」でも「Why don't you〜?」でも、普通に文字通り「Why=なぜ」と訳して大丈夫、ということです。
なお、英語では、この辺の違いを発音のアクセントによって使い分けますよ。
メモ
Why don't you throw your hatchet?
(斧を投げませんか?)
Why don't you throw your hatchet?
(なぜ斧を振らないのだ)
このように、例え同じ文でも言い方によってニュアンスの違いが強く出るのが英語の特徴ですよ。
今日のまとめ
「Why don't you〜?=〜したら?」だけど、過去形になったら普通の「Why=なぜ」の文にしてもよいってことですね。
なお、続きのセリフ「そのしくじりで妹を取られている」は、次回やりますね!
今日の言葉
Why didn't you throw your hatchet?
なぜ斧を振らなかった
Why did you show me your back?!
なぜ俺に背中を見せた!!