前回、『鬼滅の刃』第1話で、主人公の竈門炭治郎が、鬼になった禰豆子を守るために冨岡義勇と対峙したはずが、簡単に禰豆子を奪われ、土下座して禰豆子の命乞いをした結果、「生殺与奪の権を他人に握らせるな」と怒られ、その後、追い打ちをかけるかのように、「なぜ斧を振らなかったなぜ俺に背中を見せた!!」と言われたシーンをやりました。
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今回はその続きです。
冨岡義勇
そのしくじりで妹を取られている
これを『鬼滅の刃』英語翻訳版のネイティブ英語でどう訳された?という問題です。
問題
That's how I was( )to take her!
そのしくじりで妹を取られている
ヒント:①going ②afraid ③able ④sure
答え
正解
That's how I was able to take her!
そのしくじりで妹を取られている
①は「be going to」となって、妹を連れていくことが出来るという未来の話、
②は「be afraid to」となって、妹を連れていくのが怖い、④は「be sure to」となって、きっと妹を連れていく、という意味で、全然内容が変わってしまいます。
だから、「be able to」で、妹を連れていくことが出来た、という③の「able」が正解でした!
解説
原作通りの翻訳ではなく、意味合いから、英語の定型表現を上手く使って表現した文です。
That's how I was able to take her!
=そうやって俺は彼女を連れて行くことが出来た⇒そのしくじりで妹を取られている
日本語的な直訳ではなく、意味を理解した上での英訳になっていたので、その辺の違いを抑えるのがポイントです。
主語+動詞
この例文には、二つの主語+動詞があります。
メモ
That's how I was able to take her!
最初の文は主語が「That」、動詞が「is」ですね。
そして、最後の文(節)は主語が「I」、動詞が「was」で、「be able to~=~できる」という定型表現の過去形です。
それをつなぐのが「how」でした。
「how」は通常、疑問文のはじめに使うことが多い単語ですね。
参考
How many CD's do you have?(何枚CD持っている?)
How much is it?(これいくら?)
しかし今回は、それが文と文(節)をつなぐ位置にあります。
これは、後ろの文(節)が方法だったり原因だったりするときに使う「how」です(名詞節)。
この話は長くなるので、今回は「That's how」という定型表現という視点だけで見ていきます。
「That's why」と「That's how」
「That's why」は受験の長文問題などでよく見る定型表現ですが、「That's how」もこれと似た使い方ができる定型表現です。
もちろん、「why」と「how」と意味の違いから、使い方も違ってきます。
ポイント
That's why:そういうわけで〔理由〕
〔例文〕That's why I killed a man.(そういうわけで、人を殺した)
That's how:そうやって〔経緯・原因・方法〕
〔例文〕That's how I became a demon.(そうやって、俺は鬼になった)
この二つの例文の違いがわかりますか?
「That's why」の方は、人を殺した理由ですよね。
たとえば、自分の大切な人を殺されて、カッとなって人を殺したとか、そんな理由を説明する時に「That's why」を使います。
『鬼滅の刃』でも鬼になった○○○のエピソードがそうでしたね。
「That's how」の方は、鬼になった方法とか経緯ですよね。
鬼になった人間は、基本的に鬼になった時の記憶がないことがほとんどですが、上弦の中には、自分から進んで鬼になった人もいましたよね。
そういう人が、自分が鬼になった経緯や原因・方法を説明する時は、この「That's how」を使うのです。
このシーンで冨岡さんが「しくじり」と言っているのは、その前の「斧を投げなかったこと」「背中を見せたこと」ですね。
そういう経緯・原因があって、「妹を取られた」ということを言いたいワケです。
だから、「そのしくじりが=The failure」なんてことはせずに、「That's how(That is how)」を使って翻訳されているのです。
be able to~
「how」以降の文には、「be able to~」という定型表現が入っています。
丸暗記することの多い、中学で習う成句ですね。
ポイント
be動詞+able to+動詞の原形=~することができる、~できる
今回はこれを「過去形」の「was」を使って「~できた」を表しています。
「to」以降は動詞の原形「take(取る、連れて行く)」が来ていました。
そう、「to+動詞の原形」なので、これは不定詞です。
「to take her(彼女を連れて行く)」ということを「was able(できた)」ということです(不定詞の副詞的用法)。
「take」は非常に多くの意味がありますが、基本的には持って移動する(持っテイク、連れテイク)、で覚えておくとよいですよ。
ちなみに、「~できる」というと、助動詞「can」が思い浮かびますよね。
今回の文は過去形だから、「can」の過去形「could」を使って、
I could take her.
にすることができそうな感じがしますね。
でも、「could」には出来ません。
この文は、「was able to」じゃなきゃダメなんです。
「could」じゃなく「was able to」な理由
ここからは中学英語ではやらない、高校英語レベル以上の、ちょっと突っ込んだ話です。
そもそも、「can」と「be able to」は、同じ「~できる」と訳せる言葉ですが、かたや助動詞、かたや形容詞(+不定詞)と、まったく異なる文法表現を使っています。
ポイント
助動詞:動詞の意味を助ける
形容詞:名詞の状態や様子を説明する
ということは、同じように訳せる時もあれば、違う時も当然出てきます。
現在形では同じように使えますが、過去形になったりすると、変わってくることがあるんですね。
この例文がまさにそう。
そもそも、「be able to」と「can」の意味はこのようになっています。
ポイント
be able to+動詞の原形=~(することが)できる、~する能力/可能性がある
can+動詞の原形=~(することが)できる
「~することができる」となる時は、「be able to=can」が成り立ち、「be able to」を助動詞としてみるのが一般的です。
特に現在形で助動詞を使わないケースはそれで大丈夫です。
ただ、「be able to~=~する能力/可能性がある」という時は「=can」が成り立ちません。
なぜなら、「able」が形容詞だからです。
「to不定詞」で続く能力や可能性を「できる」という形容詞で客観的に表現しているわけですね。
それが、過去形になったときに若干、「could」とニュアンスが変わることがあるのです。
今回の例文もそうでした。
I was able to take her(妹を連れて行くことが出来た)
と語っているのは、禰豆子を連れていくことが出来る可能性があり、それが出来た(able)という客観的な状態の話ですよね。
その時だけの話です。
かたや、この文を
I could take her(妹を連れて行くことが出来た)
とすると、動詞「take(連れていく)」が「could(できた)」という話になります。
ですから、過去においてはいつでも出来た(could)、という意味になっちゃうのです。これは主観的です。
今回のシーンは、炭治郎が禰豆子を守ろうと覆い被さり、目をつむって禰豆子から目を離したという、その一瞬のことを冨岡さんは言っているわけですよね。
このシーンは一回だけのことだから、その時の様子を表す形容詞「able」を使った表現、「was able to」を使っているわけです。
これが、こういうシーンではなく、「お前は弱いから俺はいつでも妹を連れ去れたんだぜ」みたいな話なら「could」が正解になるわけです。
確かに冨岡さんの実力を持ってすれば、いつだって連れ去れますよね?
そういう時が「could」。だからつまり、過去いつでも出来たら「could」なんです。
ポイント
be able toとcanは過去形だと意味が変わる
was/were able to=(その時だけは)~できた
could=(過去においてはいつでも)~できた
今日のまとめ
テストにもよく出てくるような表現のアレンジがある場合、あえてそうしたという理由がある、ということですね。
今日の言葉
That's how I was able to take her!
そのしくじりで妹を取られている